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寄付金を活用した作品修復のご紹介

山種美術館とご寄付

山種美術館は1966年、日本初の日本画専門の美術館として開館して以来、近代・現代を中心とした日本画の収集・研究・公開・普及につとめ、多くのお客様をお迎えしてまいりました。
2021年からは当館を応援してくださる方々からのご寄付の受入窓口を開設しました。ご寄付は展覧会の開催や運営、所蔵作品の保存修復及び公募展の開催を通じた若手画家の応援などに充てることにより、日本画を未来に引き継いでいくために活用させていただいております。

作品修復のご紹介

このたび、皆様からのご寄付を活用し、伝 長沢芦雪(ながさわろせつ) 《唐子遊び図》【重要美術品】(山種美術館)の修復を行いましたので、ご紹介いたします。

伝 長沢芦雪 《唐子遊び図》【重要美術品】18世紀(江戸時代) 絹本・彩色 山種美術館
(画像は修復後)

唐子(からこ)とは中国風の髪型や服装をした子どものことで、多子・子孫繁栄の象徴として、江戸時代には好んで絵画化された。この作品では、唐子がさまざまな遊びに興じているが、よく見ると、絵の腕を披露する子、書らしきものを広げる子、琴を奏でる子、さらに囲碁の勝負が原因なのか、散らばる碁石のそばで喧嘩をしている子どもたちがいる。これら4種の遊びは、「琴棋書画(きんきしょが)」といって、中国では古くから教養ある人々のたしなみとされ、日本でも室町時代以降、美術の主題として繰り返し取り上げられてきた。一般には中国の文人を描くが、人物を美人や子どもに置き換える場合もある。この作品では、唐子と組み合わせることで中国的な雰囲気を保ちながら、子ども一人一人の表情を細やかに描き分け、子どもらしい無邪気さや幼さも巧みに表現されており、子どもを題材とした人物画としても見ごたえのある作品といえる。
長沢芦雪(ながさわろせつ 1754-1799)は18世紀後半に活躍した京都の画家。円山応挙(まるやまおうきょ)の弟子で、応挙の主題や様式を継承しつつ、奇抜に、あるいはユ-モラスに、柔軟で個性的な表現を展開した。自身も自由奔放な性格であったと伝えられる。

修復の内容

修復前の状態

表装の裂地(きれじ)の一部が経年劣化のため損傷している。
画面に折れ(作品を巻いたことでできるシワ)が発生している。

裂地が切れている様子①(上部)
裂地が切れている様子②(下部)

修復方針

修復の専門業者が、本紙の煤(すす)落としと、表装の旧裂地を使用した仕立て直しなどを行う。

処置

  1. 作業前に、作品の状態を調査し現状の写真記録を行った。

  2. 専用の溶剤にて、作品全体の剥落防止を行った。

  3. 裏打ちを剝がし本紙の裏からも剥落防止を行った。

  4. 経年による煤や汚れが付着しているので、浄水液にて作品全体の煤落としを行った。

  5. 裂地の裏打ちを剥がし、煤を落とし、新しい和紙で裏打ちを行った。

  6. 裂地の裏打ち後に上下の経年劣化部分に補強を施した。

  7. 本紙を裏打ち後、折れ部分に補強を施した。

  8. 裂地の欠損部分に補彩を行った。

  9. 表装の仕立て直しを行った。

  10. 桐箱は旧天板を使用の上、太巻棒付きで新規作製した。

用語説明
裏打ち:紙や絹、裂などを補強するために裏面に紙を糊で貼ること。
本紙 :書画などが描かれている基底材。
太巻 :掛軸を巻く際、軸木の直径を大きくして巻きをゆるやかにするための器具。折れや歪みなどの本紙にかかる負担を軽くする。

参考文献『図解 日本画用語事典』
編集:東京藝術大学大学院文化財保存学日本画研究室
発行:(株)東京美術 2007年5月

修復後の状態

裂地の欠損部分に補彩を行った
仕立て直した表装
本紙を裏打ち後、折れ部分に補強を施し、折れが軽減した
風袋上部(外側)

今回ご紹介した、伝 長沢芦雪 《唐子遊び図》【重要美術品】は2022年10月6日から12月4日までの期間、「【特別展】没後80年記念 竹内栖鳳」で展示いたしました。

ご寄付のお願い

山種美術館が所蔵する作品の中には、経年劣化や損傷などにより、そのままでは展示できないばかりか将来的にさらに劣化が進み失われてしまう可能性のある作品があります。そうした作品を修復し、文化財の保存と活用を両立するための資金として寄付金の一部を活用させていただいております。
これからも日本画の素晴らしさを国内外に広く発信するとともに、若手画家の応援など、創立者の「美術を通じて社会、特に文化のために貢献する」という理念に基づいた活動を行ってまいります。日本画を未来に引き継いでいくための当館の活動にご賛同いただき、皆様からのご寄付を賜りますよう、お願いいたします。

ご寄付をいただきました方々には、ささやかな特典をご用意しております。ご寄付の5,000円ごとに、展覧会入場券を1枚進呈いたします。さらに1回300,000円以上のご寄付をされた方には、展覧会入場券の進呈に加え、解説付の特別貸切鑑賞会(30名様以内、美術館閉館後に開催を予定)も1年間に1回行います。
また、山種美術館を運営する公益財団法人山種美術財団へのご寄付に対しては、税制上の優遇措置を受けることができます。

ご寄付の詳細は下記リンク先サイトをご覧くださいませ。

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