山種美術館館長 山﨑妙子 特別解説「速水御舟作品の魅力」(全11点収録)
山種美術館では2021年9月9日(木)から11月7日(日)まで「【開館55周年記念特別展】速水御舟と吉田善彦―師弟による超絶技巧の競演―」を開催します。
本展覧会の開催に合わせ、速水御舟(はやみぎょしゅう)の研究者である当館館長の山﨑妙子が雑誌『ミセス』に1年間にわたって連載したエッセイをもとに加筆した解説を一挙公開します!山﨑妙子が推薦する速水御舟の代表作11作品の解説を収録。御舟のみならず、影響関係のある他の画家による作品や御舟作品の部分図など、作品1点につき複数の画像を細部までお楽しみいただけます。
今回ご紹介する11作品のうち、10作品は展覧会に出品されていますので、ご来館前や後の予習・復習にもおすすめです。また、『ミセス』連載時に取り上げた《京の舞妓》(東京国立博物館)は出品作品ではありませんが、御舟にとって大きなターニングポイントとなる重要な作品であることから、今回の解説にも収録しました。
お好きなお時間にゆっくりとご覧ください。
【ご案内】
・本記事は有料記事です。冒頭の1点を無料で公開していますが、11点全てをご覧いただくためには、無料公開の下にある「記事を購入する」をクリックしてご購入ください。
販売価格 : 500円
公開期間 : 無期限でご覧いただけます。
山種美術館館長 山﨑妙子(やまざき たえこ)
プロフィール
東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程を経て1991年博士課程修了。学術博士。同年、山種美術財団理事・山種美術館特別研究員。副館長を経て、2007年5月、山種美術財団理事長兼山種美術館館長に就任し、現在に至る。著書に、『速水御舟の芸術』(日本経済新聞社)、『現代日本素描全集④速水御舟』(ぎょうせい)など。各所での講演会のほか、英語ガイドツアー、着物イベント、ミュージアム・コンサート、休館日を利用した地域への社会貢献(小中学生のための鑑賞会)などを実施し、日本画の普及を幅広く行っている。
No.1 《紅梅・白梅》
速水御舟《紅梅・白梅》(こうばい・はくばい)
1929(昭和4)年 絹本・彩色・軸(双幅) 各113.4×35.3cm
山種美術館
絹に描かれた双幅。1929(昭和4)年、速水御舟(はやみぎょしゅう)が35歳を迎えた年の作品です。この頃、御舟は琳派(りんぱ)からの直接的な感化が見られる作品を制作しています。紅白梅といえば、尾形光琳(おがたこうりん)の《紅白梅図屏風》(国宝・MOA美術館)がとても有名です。また、月と梅は、江戸琳派の酒井抱一(さかいほういつ)が好んだ取合せでもあります。御舟はそれらを意識したのでしょう。
[参考]酒井抱一《月梅図》19世紀(江戸時代) 絹本・彩色 山種美術館
御舟の《紅梅・白梅》においては、右幅に紅梅、左幅に白梅と月が配され、紅梅は古木らしく、ごつごつとした硬い枝ぶりに、白梅は若木らしい弾力のある枝が伸びやかに描かれています。紅梅の朱色と白梅の胡粉(ごふん)の真っ白な色のコントラストも際立っています。御舟らしい張り詰めた空気を感じさせる、緊張感のある作品といえるでしょう。
《紅梅・白梅》のうち「紅梅」(部分)
《紅梅・白梅》のうち「白梅」(部分)
この作品は、私の祖父で山種美術館創立者の山﨑種二(やまざきたねじ)が昭和初期に購入し、自宅の床の間に掛けて愛でたもので、私が出会った最初の御舟作品でもあります。
幼い頃から祖父と同居していた私は、祖父の膝の上で幾度となくこの絵を眺めていました。そして、他の日本画家の美しい花鳥画とは違う、何か怖いような鋭さを子どもながらに感じ取っていました。それが何なのかを突き止めたいと思ったことが、私の御舟研究の出発点となったのです。
ちなみに、この写真で私たちの後ろに写っている掛け軸は、のちに種二が当館に寄贈したもので、西村五雲(にしむらごうん)の《寒渚》という作品です。愛らしい鴨を描いた人気作品のひとつで、当館の名品図録『山種コレクション 竹内栖鳳(たけうちせいほう)《班猫》と描かれた動物たち』にも収録されています。
西村五雲《寒渚》1938(昭和13)年 絹本・彩色 山種美術館
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